読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

SEPPUKU Web

巣矢倫理子のブログです

「野火」を見てください

感想・レビュー

※2015/08/11にnoteに投稿した記事の移行版 内容は変更なし

タイトル通りである。見てください。見なければいけません。

「野火」は、紛れもない反戦映画だった。一言も戦争はいけないなんて言葉は出てこないのに、あの映画を投げつけられて浴びてしまった私には、死んでも戦争なんか起こさせるもんか、という気持ちだけが、家の基礎みたいにどかっと落ち着いてしまったのだ。
話への感想は、正直、言えない。私が何か言えるのか、それすらよくわからない。でも、見ている間の私の体は異常をきたした。無性に肌が空気に触れているのが怖くなって、何かがまとわりついているような気がしてならず、不安で不安で誰かを抱き締めたくて仕方なくなった。唾液が止まらず、しかし胃の中は食べ物、食欲そのものを拒絶した感じがあった。開始五分目でもう早く終わってくれと祈った。三十分目には、左の手首にはめていた数珠を触りだし、口許を押さえつつ画面に向かって両手を合わせて縮こまった。上映中一度もリラックスできなかった。そわそわし、動き、目を背けた。上映が終わったあと数時間は笑えなかった。
人間は、美しいものだと思ってきた。生きていることは無条件に幸せだと思っていた。戦争はそういうものをぶち壊すのだ。こんな、ぐちゃぐちゃになった人間の手足に目を剥いてよだれを垂らさざるを得ない世界を、戦争は作り出してしまう……いや、世界などと言って私のすむ場所と分けて考えてはいけないのだろう。たった70年前に、そんなことが起きていて、しかもあの出来事はたった一人に起きたことではなく、もっともっと、もっとたくさんの人の身に起きたことで、もう、だめなのだ。許しちゃいけないのだ。本当に、あの映像はそういう説得力がある。
私は、あの場所に、絶対に行きたくない。絶対に絶対に行きたくない。私の大事な人にも、あそこに行って欲しくない。あの映画に出てきたことを何も笑えない。
そして、あれは映画であって、実際はさらにさらに悲惨だったのだろう。

今はただ、あの映画を作った塚本晋也とスタッフの方々に、黙って拍手したい。本当にやるべきことをやり遂げた、素晴らしい映画やさんだと思う。野火を作ってくださって、本当にありがとうございました。「絶対に過ちは繰り返しません。」