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巣矢倫理子のブログです

楽しく読める日本史中世の本をまとめたので日本中世史に手を出してください

  ここ1年ぐらいで痛感したことがある。「思っているより、世の中の人は日本中世に興味がない」ということだ。

 私は史学科日本中世史専攻の学部生だが、大学に入ってから世間で流布する歴史というものと実際の歴史学の最前線とにはかなりのギャップがあると感じてきた。中世は面白いのになぜか周知されていないのは、これのせいである気がしてならないのだ。このギャップは、史料の扱いや情報の並べ方や何に着目するかという問題や、とにかく幅広く見えづらく複雑なものだ。しかし、私はまだ勉強が足りず、そのあたりに感じた違和感について、きちんと言葉にする資格がある気がしない。

 なので、せめて日本中世史に興味を持っていない人に「日本中世史は意外に面白く奥深いのだ」と思ってもらえるよう、私が歴史の面白さを教えてもらった名著をまとめてみようと思う。日本史は政治史だけではない。これを読んで少しでも面白そうだと思ったなら、ぜひ手に取ってほしいし、あわよくば日本中世史の森に足を踏み入れてもらいたいと思う。

・保立道久「中世の愛と従属」

この本を読んで、政治史から社会文化史に鞍替えした。私を変えた一冊といってもいいぐらい好き。これを読むまで読書できない時期が1年ほど続いていたのだが、これ以後見違えるほど本を読めるようになった最高の本である。

保立さんの本はこれも最高でした。

・保立道久「物語の中世」

 人によってはこっちの方が面白いかもしれない。昔話から中世社会を解説するというとっつきやすい内容が魅力である。虎退治のイデオロギーと歴史責任の話が特に好き。

 

・清水克行「喧嘩両成敗の誕生」

読みやすさで選ぶなら断然清水さん。清水さんは「タイムスクープハンター」の時代考証をしている研究者である。これを読むと「昔から日本人は穏やかでいさかいを嫌った」みたいな言説をほざいている人を論破できるようになるぞ。

・清水克行「耳鼻削ぎの日本史」

 清水さんはこれも面白かった。「耳と鼻を削ぐ」ということだけ聞いて「なんて残酷!」と思ってはならない……。清水さんの本は一般向けっぽく書いてあるので本当に説明が丁寧だし、かつショッキングでキャッチーなフレーズを差し込んで読者を飽きさせないのがすごい。

書き方難しいけど、史学では中世を現代の倫理で見ることはしないので、そういう「耳鼻削ぎ」みたいなインパクトのある言葉を「読者に強いインパクトを与える単語」として扱って、それでいてそのインパクトを読者の興味を煽るためにうまく使っている本って貴重なのではないかと思うわけであります。

 真田丸で鉄火起請に興味を持った人は「日本神判史」もおすすめ。

 

 そして日本中世史で避けて通れないのは網野さん。

網野善彦「異形の王権」

 後醍醐天皇について書いた表題作にずぶずぶに影響されて教授に「賛否両論あるよ」と諌められたぐらい面白かった本。でも教授に言われた通り内容には賛否両論ある。

網野善彦編「中世の罪と罰

 門に首がかかっているインパクト大の表紙で、どういう罪がどういう扱いをされてきたのかを考察した本。切り口がとっつきやすいし、いかに中世が生命力あふれる時代だったかわかる。他にも中世史の大家がたくさん執筆しているのでお得な一冊。

網野善彦「無縁・公界・楽」

 初めて読んだ網野さんの著作がこれだった。ちょっと長いので読みづらいと思う人もいるかもしれないが、中世社会のあり方のイメージが生まれるすさまじい一冊。

 

 

 天皇家関係は、このへんを読むと「万世一系とは本当なのか」とか「皇室の伝統」みたいな問題には一つ腑に落ちる感じがある。中世、天皇家が存続する理由が消滅してもなぜか生き延びているのは、本当に不思議なことだと思う。

今谷明天皇家はなぜ続いたか」

・河内祥輔「中世の天皇観」

山口昌男天皇制の文化人類学

中世史の本ではないけれど「内的天皇制」に関してならこちら。とにかく目を開かされた本。

 

そのほか心性史の本で面白かったもの。

・笹本正治「中世の音・近世の音」

 「鐘」というものを通じて中世の心性を解説する面白い切り口の本。なぜ鐘が水の中に沈められたり土に埋められたりするのかという話や、異界と鐘のつながりの話がすごく興味深かった。

・桜井英治「贈与の歴史学

中世の贈与経済の話は本当に面白かったしちゃんと勉強したいと思った。寺に集まった牛馬を他人に売りさばく職掌の人間がいたというのが非常に気になる。

 

あとは芸能史も好き。

何が好きって、史学でありつつ芸能というすごく感覚的なものを表現するために使わざるを得ないドラマチックな文体がすごくいいっすね……。

・松岡心平「中世芸能講義」

去年出たばかりで比較的本屋でさっと手に入りやすい上文庫という好条件が揃っている。連歌の話を軽く読めたのがすごくありがたかった。とにかく読みやすい。

 

 また思い出して足すかもしれないが、集中力のない私でも読み切れてたくさんの発見が得られたすばらしい本をざっくりまとめた。

 日本中世史は面白い。誰がなんと言おうと面白い。「歴史を勉強して何になるんだ」と思っている人にこそ、足を踏み入れてもらいたいと思う。