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巣矢倫理子のブログです

オールタイム・BL漫画・ベスト10選

個人的な「好きなBL漫画」10作品のレビューです。

※順不同

 

・木村ヒデサト「鬼は笑うか」

鬼は笑うか (マーブルコミックス)

鬼は笑うか (マーブルコミックス)

 

木村ヒデサト先生がいかに天才的なBL漫画家か分かる一冊。

商業BL界に君臨する金字塔として、中村明日美子「同級生」シリーズがあるが、「鬼は笑うか」はある種「同級生」のアンチテーゼと言えるかもしれない。

「まじめに、ゆっくり、恋をしよう。」というテーマのもと、「同級生」では初々しい少年たちの純情な恋愛が描かれ、二人は「20歳になったら結婚してください」という約束まで取り付ける。18歳で一生一緒にいたい相手を見つけ出して幸せになる、それは確かに恋愛の形としてたいへん素晴らしくて古典的に人気のあるストーリーだが(同級生のすごいところはそれを丁寧に丁寧に描ききったこと)、同時にそれは極めてBLらしい幻想だろう。同性愛ファンタジーであるBLというジャンルは今まで何もかもを可能にしてきたが、それはもちろん現実とは異なっている。

「鬼は笑うか」は、両思いになった少年たちが、自分たちの愛の保証のできなさに泣く物語である。

優しい両親のもとで育った主人公・星谷が、父親に暴行・ネグレクトされ、体育教師からも性暴力を受けているクラスメイト・柏瀬に寄り添おうとし、二人が懸命に気持ちを通わせていく物語が、淡々としたリアルな描写で描かれていく。コミュニケーションは通じたり通じなかったりする。二人はそれでも手を握り合う。

「このままだと僕たち一緒にいられる理由がなくなっちゃうんだよ……?」「この先柏瀬は誰を好きになって僕は誰を好きになるの」「3年前出会ったばかりの僕たちなのに」「まだ 好きでいたいのに……!!」

最終話で自分たちの関係の不安定さに彼らは涙を流し、それでも日常は流れていく。悲しいことはなくならないけれど、日常は更新されていって、その中には楽しくて少しずつ土台になっていくものもあるのだ、という人生のあっさりした手触りを見せてくれる最高のBL作品である。

 

・木村ヒデサト「マリアボーイ」

マリアボーイ (マーブルコミックス)

マリアボーイ (マーブルコミックス)

 

 木村ヒデサト作品からもう一冊。木村先生は「子供」と「大人」の世界の差異をさりげなく描くのがとても上手いと思う。

表紙を飾る傷だらけの男が、今回の主人公・ヨシキだ。血の繋がらない弟のなおとを自分の息子としか思えなくなっているヨシキは家族との距離の取り方が分からなくなり、家を飛び出して体を売って暮らしてきた。水商売から足を洗って美容師として働く今でも、親には会わずじまいだし弟への執着は治らない。体の関係や金以外で、相手を大事にする方法がわからないのだ。なおととその恋人・シュウは、なんとかヨシキに家族との関係をちゃんと構築してもらうべく奔走する。

今作は、傷だらけの「マリアボーイ」ヨシキが、弟たちに背中を押されて少しずつ幸せに近づいていく過程を追った回復の物語である。どれだけ人生の中で間違いを犯して何かが歪んでも、人から受けた傷は人から得たもので癒せるのだ。暴力描写とトラウマの様相が濃いので苦手な人にとってはややキツイかもしれないが、後半で描かれるヨシキと素性の分からない年下の男・玲太との恋愛模様を読めば必ず温かい気持ちになると思うので、そこは耐えて欲しい。

なお、こちらの作品はカバー裏に重要な設定がびっしり書き込まれているので、単行本での購入を強く勧める。

 

・のばらあいこ「寄越す犬、めくる夜」

寄越す犬、めくる夜 1 (Feelコミックス オンブルー)

寄越す犬、めくる夜 1 (Feelコミックス オンブルー)

 

 BLの中では「ヤクザBL」というものが1ジャンルとして隆盛しているということは周知の通りである。そこに「寄越す犬、めくる夜」が革命を起こしたのは、「W受け」という凶悪なスパイスを挟み込んだからだ。

トーリーは非常に重い。裏カジノでディーラーとして働く主人公・新谷(攻め)が同僚のチンピラディーラー・菊池(受けその1)が起こした横領事件に巻き込まれ、菊池の借金返済に協力することになってしまう。菊池が金の工面のために体を売り始める中、新谷はカジノ店の副店長でありヤクザの愛人でもある須藤(受けその2)に「援助交際」を持ちかけられる……というあらすじだけで胃もたれしかねない。ここまで読んで「新谷がかわいそう」と思われる方もいるかもしれないが、これが天下ののばらあいこ作品であることを忘れてはいけない。

新谷は「かわいそうな人に勃つ」性癖の持ち主なのだ。

この一言だけで、罪と罰で回転する悪夢の三角関係がさらにどす黒い様相を見せ始める。「生まれて初めて優しくしてもらった」と不安定な精神を抱えて新谷に惚れ込む菊池、クスリ漬けの生活を送り、気まぐれに新谷を翻弄しながらも自分の暗い過去を匂わせる須藤。三人を繋ぐのは金と性欲だ。逃げ場はない。

「いるよね、ああいう何が普通なのかわからん子ってさあ……」

世間から後ろ指を指されて生きるはぐれ者たちの夜が淡々と描かれるノワールBLの傑作。現在2巻まで発刊されているが、どのような着地点を見るのか今から非常に楽しみである。

 

・のばらあいこ「秋山くん」「秋山くん2」(既刊2巻)

新装版 秋山くん (マーブルコミックス)

新装版 秋山くん (マーブルコミックス)

 

 

秋山くん2 (マーブルコミックス)

秋山くん2 (マーブルコミックス)

 

のばらあいこ作品からもう一作。のばら先生の作品は作者買いしております。 

すごくシンプルでいいタイトルだと思う。秋山くん(受け)の彼氏は柴くん(攻め)と言うのだが、「秋山くんと柴くん」ではなくて、「秋山くん」なのだ。つまり、柴くんが秋山くんのことを、大事に大事にしようとする物語なのである。

秋山くんはダウナーなヤンキーで、親が帰ってこない家や喫茶店や気まぐれに来た学校の隅でぼーっとしているきれいな男の子だ。柴くんはたまたまカツアゲされていたところを秋山くんに助けてもらい、それ以来秋山くんにずっと片思いしている。ひょんなことから柴くんの思いは通じ、体から始まった二人がウブなコミュニケーションを繰り返す、極めてラブリーなストーリーがたまらない。

BLにおいて、自分と性別は同じなのに圧倒的に「違う」他者をどう受け入れるかというテーマに関してはいつも多彩な作品が触れてきた。それを語らずにあっさりと乗り越えさせてしまうのがこの作品のすごいところかもしれない。

「秋山くん」の中で起こる、クールな不良とストーカー気質のナードくんがそっと手を握るような恋愛は、誰の目に見てもはちゃめちゃにかわいいに違いない。

 

・はらだ「よるとあさの歌」

よるとあさの歌 (バンブーコミックス Qpaコレクション)

よるとあさの歌 (バンブーコミックス Qpaコレクション)

 

 多作なはらだ先生の作品の中で一番好きな作品。

ベースが抜けた主人公・朝一(攻め)のバンドに、朝一への片思いを募らせて途中加入してきたヨル(受け)。女好きな朝一はヨルの気持ちを徹底的に否定するが、歌うヨルの姿を見てからうっかり興奮、体の関係を持つようになり……というバンドマンもののストーリー。

大筋としてはBLではおなじみの「大っ嫌いなあいつがだんだん気になりだして、最終的にカップルになる」というものなのだが、はらだ作品は常に予想の一段上を行くので安心してほしい。それがBL界の革命、「砂利ローション」だ。

終盤で突如乱入するヤクザ、そしてヤクザによってレイプされてしまう朝一、彼の尿道に挿入される砂利入りのローション!!という怒涛の暴力を叩き込んでくるくせに最後はきれいにまとめきる、読み終わったらスタンディングオベーションしたくなる名作である。ヨルの一途さ、文句無しのエロシーン、全てひっくるめて尋常でない満足感をもたらしてくれる一冊。

 

・丹下道「恋するインテリジェンス」(既刊3巻)

恋するインテリジェンス (バーズコミックス リンクスコレクション)
 

 究極のアホエロといえば私の中ではこれ一択である。

連続性のある短編オムニバス形式でストーリーが展開されていくタイプの作品で、登場するカップルはほとんど全員が官僚だ。とにかく設定が濃く、基本的にキャラクターは皆異常な金持ちである。受けと自宅で事に及ぼうとする攻めが自然に「寒くない? 暖炉強くする?」と言い、受けが視界からいなくなると「どこにいるの? プールかな?」と言いながら探す。お前は宮殿に住んでいるのか??????

しかし恋するインテリジェンスの「ヤバさ」はここだけではない。「潜入捜査の訓練のために合法的に常にエロいことができるバディ制度」「男でも母乳が出せるようになる薬」「若い美形官僚を家に招いてエロいことをしようとしてくる大物政治家」「それを助けるために大物政治家の邸宅の壁を高級車で突き破って出て来る攻め」など、正直笑いが止まらないレベルのBL設定が2秒おきに飛び出してくる。例えるなら叶姉妹だらけの水泳大会というか、ゴージャスなんだけどゴージャスすぎて笑うしそれ使ってそんなことすんの? え? みたいなシンプルな驚きに濃厚なエロシーンが相まって、う〜〜ん、要するに最高!!!!

 

・トウテムポール「東京心中」シリーズ(既刊6巻)

東京心中 上 (EDGE COMIX)

東京心中 上 (EDGE COMIX)

 

 起承転結で盛り上げる波乱万丈ドラマでは全くない。「東京心中」は、ただ二人の男と彼らの周辺の人々の生活を描くお仕事漫画であり、同時に明確にBLなのだ。 

やりたいことが見つからない主人公の宮坂(攻め)は、「なんとなく」でテレビ番組制作会社のADになるが、そこで美形のプロデューサー・矢野さん(受け)に出会い、「矢野さんの役に立ちたい」という一心で仕事に邁進していく。人間より映画が好きで徹底的にマイペースな矢野さんと、一途で家事と気配りが大好きな宮坂のカップルがひたすらテレビ番組制作という激務に追われる生活を描いたコメディー作品であり、BLが苦手な人でも読み易い。

 この漫画の稀有なところは、キャラクターの生活感覚と記憶がとても生々しい点だと思う。矢野さんが語る子供時代の飼い犬「けん」の思い出や、岩手出身の宮坂が生前分与でもらった家を地元の友人に土地ごと貸している話など、本筋には特に関係がないのに出てくるエピソードが一つ一つ手触りと質感を持っていて、人物造形を丁寧に構成しているのだ。何度読んでも友達の話を聞いているような近さがある。トウテムポール先生は本当に天才だ……。

 

・ヨネダコウ「囀る鳥は羽ばたかない」(既刊3巻)

囀る鳥は羽ばたかない 1 (H&C Comics  ihr HertZシリーズ 129)

囀る鳥は羽ばたかない 1 (H&C Comics ihr HertZシリーズ 129)

 

 悲しいことを悲しいこととして描くのは平凡だ。しかし悲しいことに直面して誰にも救いを求められない当事者にとって、一番簡単な自己防衛は「これは別に悲しいことじゃなかった」と考えることである。

「囀る鳥は羽ばたかない」は、淫乱ビッチの若頭・矢代と、とあるトラウマからEDになった矢代の手下・百目鬼を軸に展開されるヤクザものBLだ。BL要素を抜きにしたヤクザ漫画としても面白いと評価される濃密なストーリーと同時に、矢代という男の寂しさと残酷さが少しずつ見えていく。

とにかく必読なのは、1巻に収録された短編「漂えど沈まず、されど鳴きもせず」だろう。(公式ツイッターで公開されているので要チェック!)矢代がヤクザになるまでを描いた前日譚とでも言うべき番外編だが、ここで徹底的に描かれる矢代の苦悩と歪みはBL云々関係なく胸に刺さるはずだ。些細な幸福も握みにに行けなかった一人の男の歴史が切ない。まだ物語は続いており、こちらもどのような結末が待っているのか今から恐ろしくもあり楽しみでもある。

 

・SHOOWA「イベリコ豚と恋と椿。」「イベリコ豚と恋の奴隷。」シリーズ(既刊3巻)

イベリコ豚と恋と椿。 (GUSH COMICS)

イベリコ豚と恋と椿。 (GUSH COMICS)

 

 

イベリコ豚と恋の奴隷。 (GUSH COMICS)

イベリコ豚と恋の奴隷。 (GUSH COMICS)

 

 

イベリコ豚と恋の奴隷。 (2) (GUSH COMICS)

イベリコ豚と恋の奴隷。 (2) (GUSH COMICS)

 

 日々ゴミ拾いに精を出すヤンキー環境美化集団・イベリコ豚のメンバーの恋愛模様を描いた超人気シリーズ。一応主人公はイベリコことイベリコ豚のリーダー・入江×跳ねっ返りの他校生・椿のカップリングなのだが、シリーズ第1巻「イベリコ豚と恋と椿。」の半分と続刊シリーズ「〜と恋の奴隷。」全編は、無口で不器用な二年生・源路×トラウマを持つ組織のNo.2・吉宗のカップルが描かれる。この二人がもう、最高。

私はとにかく「受け入れようとする年下攻め」が「経験豊富で暗い過去のある年上受け」に翻弄される話が大好きなのだが、まさにこの作品はドンピシャストライクだった。

 

(以下はネタバレを含むので、筋書きを知りたくない人は読まないでください)

 目を見張るのは「恋と椿。」収録の吉宗の回想シーンである。雀荘で出会った悪い男にひっかかり、肉体関係を持ち、言われるがままに覚せい剤のパッキングを手伝い、果てには無理やり3Pするところを映像に撮られてしまうという、堕落と破滅の道を突っ走る15歳の頃の吉宗がめちゃくちゃに痛々しい。(雀荘でヤクザと出会ってズブズブの関係になる回想が読みたい人は前述の「囀る鳥は羽ばたかない」も読もう)

 彼の不安定で寄る辺のない刹那的な生活は、 刺青の彫り師から言われた「君はこっち側の人間じゃない ちゃんと日の当たるところに戻りな」という一言でようやく終わりを迎えた。心に残ったトラウマと閉ざされたいくつかの感覚は、源路のまっすぐな愛で少しずつ治癒していく。絶対に幸せになってくれ! あと20巻ぐらい続いてくれ! と叫びたくなることは間違いない。

 

・阿仁谷ユイジ「ミスターコンビニエンス」

ミスターコンビニエンス (ビーボーイコミックスデラックス)

ミスターコンビニエンス (ビーボーイコミックスデラックス)

 

 今年の夏にリニューアル版が発売された作品で、元は2008年に刊行されている。

 最近あまり流行の兆しを見ない(私が知らないだけでどこかで隆盛しているのかもしれないが)「方言もの」で、九州の田舎のコンビニを舞台に博多弁で繰り広げられる恋愛劇である。主人公は地位も顔も彼女も「そこそこ」のコンビニ店長・北村(31歳、攻め)。このままごく普通の安定した生活が続くのかと思っていたが、ゲイのアルバイト・南原(21歳、受け)に告白されたことで日常が少しずつ変化していく。

 阿仁谷ユイジ先生の絵は「肉」というものと徹底的に相性がいい。人間の体の曲線、二の腕や太ももや指先や耳殻、唇やそこから覗く舌の、優雅にふくらんで流れるラインがとにかく美しくてエロい。31歳の凡庸な男の変わりばえのしない日々に、突然現れた21歳の美青年の美しい肉体が鮮明に映るときの戸惑いと高ぶりは、阿仁谷先生の筆でなくては伝わりきらないだろう。最後に挿入される物語に絡んでくる女の子のモノローグも、後味に心地よくほろ苦いものを添えている。

 

 

こうして振り返ると、BL一冊一冊に思い出がある。15歳の頃に地元の本屋(今はもうない)でドキドキしながら買ったもの、友達からクリスマスにもらったものなど、私の人生の中にはいつもBLがあった。このラインアップはあくまで20歳現在のもので、きっとすぐにまた更新されていくだろう。これから先も末長くBLと暮らしていくのだという確信とともに、私はまた本屋で名作を掘り続ける。