読書の秋なので手軽に読める日本中世史本を貼っていく

序:基礎的なことをやりたい人向け本 

◯そもそも日本史選択ではなかった、あるいは忘れた、あるいは勉強したが何か基本的な情報を手元で確認できる本がほしい人 

『詳説日本史研究』
詳説日本史研究

詳説日本史研究

 

山川日本史教科書準拠で中身の濃さは数倍の「詳説日本史研究」があります。コラムが多いし読み応えばつぐん。↑に貼ったのはなんと今年の8月31日に出たばかりの9年ぶりの全面改訂版だそう。私が持っているのは↓の古い方です。古い方がちょっと安い。

 

詳説日本史研究

詳説日本史研究

 

寝る前に毎日めくってます。

 

◯高校日本史は一通り分かるけど史料は読んだことがない人

苅米一志、日本史史料研究会『日本史を学ぶための古文書・古記録訓読法』

前近代日本列島に流通していたローカライズされた漢文=変体漢文を読むための最高の本です。買って損はない。

日本史を学ぶための古文書・古記録訓読法

日本史を学ぶための古文書・古記録訓読法

 

 これだけだと単語は勉強しきれないので、現代語訳の吾妻鏡と原文をつき合わせながら読むなどするとなおよいかもしれない。吾妻鏡は学部ゼミの最初の史料講読に使われることが多いらしいです。(私のときはそうではなかったけど)吉川弘文館から分冊で出ているので、好きな出来事から時期を選んで買ってみても面白いと思います。

 

現代語訳吾妻鏡〈1〉頼朝の挙兵

現代語訳吾妻鏡〈1〉頼朝の挙兵

 

 本題:面白い本を読みたい

(比較的)安く読めて面白い中世本のピックアップです。いわゆる政治史の本はほぼなく、どれも中世社会のあり方に関する内容です。中世に対するイメージを自分の中で再構築するとき、社会の解像度をがんがん高めてくれる素敵な本を選びました。

「中世の最大の特徴は「暴力」「飢え」「信仰」」という清水克行さんの言葉を念頭に読んでもらうとなお面白いかと思います。なお、私の興味の範囲の関係で飢饉に関する本が多いです。ご了承ください。

 

rinriko-web.hatenablog.com

 こちらに記載した本は載せていないので、こっちの記事も参考にしてください!

 藤木久志『雑兵たちの戦場』
【新版】 雑兵たちの戦場 中世の傭兵と奴隷狩り (朝日選書(777))

【新版】 雑兵たちの戦場 中世の傭兵と奴隷狩り (朝日選書(777))

 

 戦国時代の村に焦点を当てた朝日選書三部作のうち最も有名な一冊。戦国武将は天下統一の夢を抱いて皆他国の征服に乗り出した、というイメージが世間には横行していますが、実際は全くそうではなく、彼らが奪い合っていたのはむしろ食料でした。飢餓が常態化した中世において、戦場は「口減し」の場だった……という衝撃的な内容を実証しています。

 

飢餓と戦争の戦国を行く (朝日選書)

飢餓と戦争の戦国を行く (朝日選書)

 
戦国の村を行く (朝日選書)

戦国の村を行く (朝日選書)

 

 三部作残りの二冊もぜひ一緒に読んでほしい……のですが、『飢餓と戦争の戦国を行く』はずっと品切れで、中古しかないようです……。

清水克行『大飢饉、室町社会を襲う!』 
大飢饉、室町社会を襲う! (歴史文化ライブラリー)

大飢饉、室町社会を襲う! (歴史文化ライブラリー)

 

 めちゃくちゃ大好きな一冊。応永の飢饉という15世紀の日本列島を襲った未曾有の災害の一部始終を追いかけた本です。政治、気象災害、経済など、各方面から飢饉という"人災"のリアルをあぶり出す盛りだくさんな内容が大変魅力的です。飢饉は単なる天候不順による凶作ではなく、政治や経済を含めた社会のひずみが爆発した結果として発生するものだということがよく分かります。ちなみにあの一休さんが悟ったのも応永の飢饉の真っ只中だったらしい。

京都で最大限の高値で米を売るために商人がわざと運輸ルートを閉ざして飢えを促進する祭り「飢渇祭」を開き京都を作為的に飢餓に陥れた、という伝説のエピソードも収録されています。

 高野秀行、清水克行『世界の辺境とハードボイルド室町時代
世界の辺境とハードボイルド室町時代
 

 こちらは「謎の独立国家ソマリランド」などの著作で有名な高野秀行さんと清水克行さんの対談本です。なぜタイトルが村上春樹のパロディなのかは誰にも分からない。

室町時代ソマリランドの意外な共通点など、その斜め上の視点に驚かされっぱなしの一冊。読みやすいので超オススメです。山口晃さんの絵を使った装丁がめちゃくちゃかっこいいです。

 

その清水克行さんの新刊はこちら。(買いましたがまだ全部読んでません……)

室町幕府将軍列伝

室町幕府将軍列伝

 

 

10月に出たばかりです!歴代室町幕府の将軍を一人一人章立てして紹介した読みやすい構成です。注目すべきは将軍ではないけれど将軍権力に大きな影響を与えた人物についてのコラムが挟まれている点で、私が大好きな足利直義についても掲載されています。直義の死因については諸説あり、(史料がないので大きな議論になる問題ではないのですが)清水説では尊氏による毒殺説が改めて推されていたのが個人的にはアツかったです。

 

 苅米一志『殺生と往生のあいだ』

 中世のキーワード「信仰」と「暴力」を兼ね備えた一冊です。中世は極端に殺生を避ける思想が発達した時代でしたが、実際には生きるために生き物を殺さねばならない局面は日々発生していましたし、人間もそこらじゅうで殺す・殺されるの戦いを繰り返していました。中世社会の矛盾を丁寧に解説していて、大変わかりやすいです。

  桃崎有一郎『平安京はいらなかった』

 衝撃的なタイトルが話題を呼んだこの本、めちゃくちゃ面白かったです。あの真四角の平安京は実は全部機能していたわけでは全くなく、ほぼ北東部しか稼動していない!ということを実証しています。「牧場・スラムとしての朱雀大路」など刺激的な目次が並んでいますね! 中国を真似て巨大な都を作ったものの、プラン先行で利用のリアルを考えなかった結果、どんどん荒廃して限られた部分しか使われなくなっていく……という前近代都市計画破綻の経過をたっぷり楽しめます!

政治的な意図によって設計されたものが人間の跋扈に全く即しておらず結局食い尽くされる流れ、最高〜〜!

勝田至『死者たちの中世』
死者たちの中世

死者たちの中世

 

 中世のお葬式について知りたい方はこちら。ちょっと前の本ですが、今年の初夏に重版されたようで、意外と店頭でもみかけます。

巻末にはなんと「中世死体遺棄年表」という付録つき。12〜13世紀の京都で観測された死体遺棄を年代順に掲載してあり、限られた用途に関して極めて便利です。

 ルシオ・デ・ソウザ、岡美穂子『大航海時代の日本人奴隷』
大航海時代の日本人奴隷 (中公叢書)

大航海時代の日本人奴隷 (中公叢書)

 

 急にテイスト変わってごめんな!ほぼ近世史で恐縮ですが、16世紀の奴隷貿易に当時の日本列島はバッチリ組み込まれていて、ペルーにもゴアにもフィリピンにもポルトガルにも日本から出荷された人たちが生きていた!という壮大な人間ドキュメントです。16世紀のペルーの教会の隣にひだ襟を作って売るショップを開いていた自由民の日本人がいた、という話にはワクワクせざるを得ません。やっぱり人間が移動することは面白い!

この本、実はもっと長い本の一部を書籍化したもので、まだ続きがあるらしいので、みんなで買って続刊を促しましょう。

 田中貴子『性愛の日本中世』
性愛の日本中世 (ちくま学芸文庫)

性愛の日本中世 (ちくま学芸文庫)

 

 表紙がすでにいいですね。春日権現験記という14世紀の豪華な絵巻物の一幕で、セックス後の男女と女性の姿で顕現した神が描かれている有名なシーンです。

作者は歴史学ではなく国文学の研究者。稚児のジェンダーについて書いた文章が新鮮でとても面白い一冊です。「京女」という偏見など、短くて問題意識がはっきりした文章がいくつもまとまっているため、とても読みやすいのがありがたい。

稚児について知りたい人は松岡心平さんの本もオススメです。

 

宴の身体―バサラから世阿弥へ (岩波現代文庫)

宴の身体―バサラから世阿弥へ (岩波現代文庫)

 

 

 

 新しいものから古いものまで色々貼ってみました。政治史に比べ、社会史はとっつきやすくてテーマが幅広いのが魅力です。ぜひこれをきっかけに、読書の秋を中世と共にお過ごしいただきたいと思います。Have a nice 中世!