SEPPUKU Web

rinsura_comのブログです

受験の終わり・仕事の再開

人身売買と抱き合った一年が終わった。私の卒業論文のテーマは中世の人身売買で、2017年度は本当にそのことばかり考えていた。11月後半の追い込みの時期はもはや「中世の人身売買以外のことがわからない」状態になっており、最終的に母親に「市役所って何?」と聞く領域に達した。鎌倉幕府法112条(もちろん人身売買にまつわる法である)を印刷したマグカップを特注し、そこから毎日水を飲んだ。私の体の内側は人身売買に満たされた。作業がうまく進めば生きていてもいいような気持ちになり、進捗が悪ければ自己肯定感は地に落ちた。私と人身売買は深く愛し合い、お互いをお互いの一部としていたのだ。そこまでしないと、要領が悪く集中力のない私には卒業論文を書くという巨大でプライドと意地と将来が懸かったタスクを達成することができなかった。就活をせず、ライターの仕事も断り続け、生活のための作業を母にほとんど投げて初めてやっとよいものを書くことができた。己の処理能力の低さにはほとほと手を焼いている。

他のことができずにいた期間、私は飢えていた。とにかく卒業論文ではない文章が書きたかった。ライターに戻りたかった。2017年度は言われた作業をこなすことで時給が得られるような、頭のリソースを使わないバイトしかできなかったのである。何も書いていないのに今の自分はライターを名乗っていてよいのか。一種のアイデンティティーの揺らぎですらあった。煮詰まるたびに新しいファイルを立ち上げてどこにも出さない文章をいろいろ書きなぐったが、それを完成まで持っていけるほどの余裕もなかった。(私の体感では、一つの文章を8割まで書き上げるのは簡単だが、完成形まで持っていく残りの2割はすさまじく困難で倍の時間がかかる。)書いていても、インターネットの上の私は「書いていない人」だった。プロフィールの「ライター」という肩書きを「多分ライター」に変え、「仕事休止中」と書き添えた。

 

卒論と受験の嵐に揉まれ続けた先の見えない季節は、2月の半ばに終了した。最後の関門・大学院入試を終えた今は、人身売買と距離を置いている。やっと別のことを考えられるようになり、私は心底新しいワーキングメモリの獲得を喜んでいる。

というわけでようやく仕事を再開した。

 

まずユリイカ3月号の岡田麿里特集である。漫画『荒ぶる季節の乙女どもよ。』について8000字超執筆した。インタビュー以外でここまで長い原稿を書いたのは初めてかもしれない。『荒ぶる季節の乙女どもよ。』は文学少女たちが「性」に向き合って揺らいでいく様子を描いた群像劇で、身に覚えのある描写が切ない。言葉にすることで自分自身を受け入れることについて「乙女ども荒野をゆく」というタイトルで執筆しているので、興味のある方はぜひ。

 

青土社 ||ユリイカ:ユリイカ2018年3月臨時増刊号 総特集=岡田麿里

 

 

次いで、wezzyでラッパー・椿さんのインタビュー記事を書かせてもらった。

wezz-y.com

椿さんの壮絶な経験と、その上で立ち上がろうとする姿勢に本当に勇気付けられた。反響もとても大きくて、HIPHOPに限らず「性別の枠」を打破したいと願う人に広く読んでもらえたように思う。実はwezzyで書くのはこれが初めてだ(wezzyはmessyから独立したサイトで、私は独立以降記事を書いていなかったからである)。ずっと不義理を働いていたが、やっとまともに仕事ができた。よかったよかった。

 

日本語ラップつながりでもう一つ取材記事。こちらは背川昇『キャッチャー・イン・ザ・ライム』に絡んだ漫画談義である。

nlab.itmedia.co.jp

本当に出てくる話が細かい! 編集の方がものすごい漫画読みだったために事なきを得たが、私一人だったら話がわからなくて詰んでいたと思う。「足を切られたナイジェリア人」って誰だよ!

なんだかんだラップ関係の記事は色々書いているなあと思い出した。

nlab.itmedia.co.jp

ねとらぼではこういう取材にも行かせてもらっている。

 

 

そして!

ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』の新作連載に合わせてレビューを執筆した。新作、そう新作やってるんですよ今。

nlab.itmedia.co.jp

shonenjumpplus.com

私は2005年ごろから2009年ごろまで断続的にジャンプを読んでいたので、ムヒョには大変お世話になった。作品に関してはレビューでさんざん書いているのでそちらを読んでいただくとして、新作に関してちょっと感想を書きたい。改めて読むととにかく絵が美しくて感動してしまった。西先生の絵は羽海野チカ作品などの少女漫画や絵本に深くインスパイアされており、やわらかく穏やかな線、繊細に揺れる瞳の存在感がたまらない。この絵柄が一度「恐怖」の方面にふれると、その童話的な世界観が一気に表情を変え、人と同じ次元に潜む「人でない何か」に対する圧倒的な説得力に変わる。すごい。何度西先生の絵を真似しただろう……。

前から何度も言っているのだが、西先生の真価は「少年」にある。近年「エルフ湯つからば」「必殺猟師bunnyさん」「ライカンスロープ冒険保険」など、ファンタジー×セクシー路線に寄っていた西先生だが、やはり「ムヒョ」で見せた自分と他人の境目が曖昧な季節にある少年たちの別離・責任・愛・罪と罰が、私には最も輝いて見えた。まだ一話だが、さっそくバビロらしき人物が登場し、期待値はダダ上がりしている。バビロとは西義之魔物鑑定士バビロ』の主人公で、少年オズの承認欲求・自己実現をめぐるジレンマに漬け込む謎の美青年だ。本編が事実上連載終了になってしまったため彼の目的の全貌は明かされていないのだが、少年の危うさに足を踏み入れて何かを求めているらしい彼が魔法律の世界にどのように介入してくるのか楽しみである。

あと、西先生には個人的にパブリックスクールものとかギムナジウムものを書いてほしい、という願望がある……ドロドロ少年サスペンスが見たい……。

 

はい、散漫な話題になったけど最近はこんな感じです。仕事は引き続き募集中ですので、ご連絡お待ちしております。あと2年はフリーでいろいろ書くつもりです。できるだけいろいろできるといいな。